世間しらずのお嬢様

世間知らずのお嬢様の話はよく聞くが、まさか自分の知り合いにお嬢様がいるとは思わなかった。
大学に入って、東京に出てくると、世間がぐっと広がるから出会うこともあるのかもしれない。

今や多くの女性が工学部でがんばっているが、私がいたころはまだまだ珍しい存在だった。
180名いる学科の学生のなかで、女性は私も入れて3名だった。
そのうちの一人は、横浜の山手のお嬢様だったのである。
とてもまじめで素直な彼女は、私たち3人が知り合って3か月ほどたった頃、突然もう一人の友人に謝ってきた。
謝った理由は、第一印象がかなり悪く、嫌な人だと誤解したというのだ。
だからといって、2人が仲が悪かったわけでなく、そこは大人の付き合いをしていた。
ということは、実質無害だったのだから、謝る必要などないと思うのが普通だと思うのだが、彼女は違っていた。
誰かに嫌な人だと思われることは悲しいことだからというのが理由なのだが、どうも腹に落ちなかった。
だったら、黙っていれば丸く収まるのではと思うのである。
たぶんそれが、世間一般の考え方だと思う。
とはいえ、言われた方はどうなんだろうと思い、それからしばらく経って聞いてみた。
とにかくびっくりしたと話してくれた。
私も隣で聞いていたびっくりしたくらいだから、本人はさぞびっくりしたことだろう。
どういう顔をしたらいいかわからなかったという。
お嬢様である彼女にしてみれば、素直に謝れば許してくれて、水に流してくれるとおもっていたのだと思う。
だが、部外者の私でさえ、いまだにおぼえているのだから、言われた本人は、もっとインパクトが強かったのではないかということは容易に想像できる。