その日は朝からものすごく寒くて、少しでも早く温まりたいと思うような日でした。
恐らく、みんながそんな風に思いながらいたのだと思います。
私は、その日目にした今でもどちらが正しかったのか、どちらが謝るべきだったのか分からない現場を覚えています。
たぶんこの時、世の中には簡単にジャッジすることができないことがあるのだと知ったのだと思います。
もうずいぶん前の田舎でのことですから、今はもう無くなっているかもしれない小さな立ち食いそば屋。
駅の改札口を出てから、ぽつんと立っているお店でした。
そこへ、ガタガタ寒さに震えながら一人の男性が歩いてきました。
雪もチラつく夕方でした。
カツオ出汁の香りと湯気がもうもうと立っているお店の前で、注文しているのが分かりました。
手には一万円札が一枚握られています。
ところが、お店の人がおつりが無いからだめだと断っているのです。
男性は、どうして釣りくらい用意して置かないんだとご立腹。
それに負けじと、お店のおばちゃんも反撃しています。
「そばを食べるのに一万円持ってくる人がいるか!」と。
どちらも絶対に譲らずに、険悪なムードになっていました。
確かに両者の言い分もよく分かるのです。
寒くてとにかく温かい物が食べたい男性。
でも、両替が簡単にできない場所で一人で営業しているおばちゃん。
結局、男性は怒りながら諦めてどこかに行ってしまいました。
この時のことをふと思い出して、今も時々考えることがあるのです。
一体どちらが間違っていたのかと。
ただ一つ言えることは、どちらも謝る姿勢がまるでなく周りの人まで嫌な気持ちになっていたという事です。