屋根裏部屋のこと

前に住んでいた家には屋根裏部屋があった。
家が三階建てのようになっていて、二階から続けて屋根裏に行けるという仕組みではなくて、普段はその屋根裏部屋階段は、天井の隠し扉の中にすっぽり収まっている。
荷物が納戸に入らなくなった時なんかに、階段を引っ張って下ろす棒を使って、天井から階段を引き下ろすのだ。

よく外国の映画で見るような、お屋敷の屋根裏とはわけが違う。
そこに陣取って本を読みふけったり、ベッドを整えて部屋として使ったりなんか絶対にできない。
そんな屋根裏部屋だったら憧れである。
けれども現実は、まず窓がないから冬は寒いし夏はおそろしく暑い。
第一、 外からしか階段を引き下ろせないのだから、万一ここに閉じ込められてしまったらもういろいろなことを覚悟してあきらめるしかない。
というわけで、本当に単なる物置だったのである。
そこには、子供のころ使ったぬいぐるみや人形なんかも置いてあった。
私の幼少時代愛したものたちがそこに押し込められていたのである。
だから、その屋根裏に行くたびに申し訳ない思いをしたものだ。
その中に、母親がもらった中華服を着たかわいい女の子の人形があった。
この子には、思い出がある。
忘れられない一瞬の思い出だが。
黒髪をおさげに編んでいるかわいい子だった。
その子とは、私も子供の頃ずいぶん遊んだ。
けれどもやはりだんだん大人に近づいていくと、自然ぬいぐるみや人形とは距離ができてしまう。
私の場合もやはり例にもれず、結局そういうものたちは、置き場がなくなってしまって屋根裏に行ってもらうことになった。
ある時、屋根裏を整理することがあって、そのぬいぐるみたちも整理した。
整理といっても効率よくしまうというだけだったが。
その際どういうわけか、私はその黒髪の中華服の子を屋根裏の階段の一番上の段に座らせたらしい。
そして、それをそのままに屋根裏を後にした。
そして、下ろし階段をしまおうという段になって、その女の子が階段の上から私を見下ろしていることに気付いた。
その時の目が、えも言われぬほど悲しい目であった。
私は突然胸をつかまれたような、心臓をわしづかみにされたような思いがした。
と、いうところで思い出は途切れている。
その後どうしたのか、それは分からない。
けれどもその女の子の目が(その子はもうずいぶん前に手放してしまったのだが)、その瞬間に、私の中に一生忘れられない記憶を刻んだことは間違いない。