押入れと言うものは不思議なものだ。
物置にもなるし、子供の部屋にもなる。
兄弟姉妹のいる子供というのは、よほどの場合でない限りは一人部屋と言うものを持たせてもらえない。
ことに小学生であれば尚のことである。
最近ではすっかり大人になって、家賃やら何やらの大人の事情を少しばかりながら知るようになってからは、自分の部屋を持ちたいと言う子供らしい願いが無理のある願いであることがわかってしまった。
だから、昔の私が姉と部屋を分け合っていたこと、これも仕方のない苦肉の策であることが分かっている。
けれどももちろん子供にとっては何としても自分だけの部屋が欲しいと言う欲求があるわけで、なんとかしてその対応策を練るわけである(一人部屋が不可能なことはもとより分かっているのだ)。
そこで重宝されるのが押し入れである。
かくいう私も、押し入れを我が部屋としたことが幾度あるかしれない。
押し入れの中にデスク用のライトを持ち込み、マンガ、本、布団、おやつ、その他もろもろを持ち込んで、狭い快適な部屋を作り上げたものだ。
薄暗い中での読書やおやつは、得も言われぬ背徳感をあおって何とも快感である。
ここがあれば、別に大きくなっても自分の部屋はいらんと思ったものだ。
いつこれを部屋と呼ぶのは無理があると気づいたものだろう。
あまりに陰気で、あまりに蒸したのであろうか。
これはきっと多くの子供が経験したことであろう。
ある意味では自我の芽生え、成長過程を感じさせる一事である。
そういえば、あのころは自分の部屋というものに対する憧れがすごかった。
ある意味での青春である。
ちなみに今では押し入れは、私の酒癖の悪さを後悔するための懺悔室となっている。